◆生後100日〜


「男子三日会わざれば刮目してみよ」

成長はそんな生ぬるいものじゃなかった。
毎日毎日大きくなるのが目に見えてわかるのです。
毎日毎日。
大きくなったね、と頭を撫でました。

>>生後100日<<
ルークは生後100日を迎えた。
丸々としていたぬいぐるみのような身体もだいぶ犬らしい感じになってきた。
来た時、3kgほどしかなかった体重は、7.6kgにも増えている。
片手で胸を支えて軽々と抱き上げることができていたのに、今では両腕で一生懸命抱え上げなければならない。
ルークの噛み癖は来た時からあったが、人間は噛まれると痛いのだと言うことはぼんやりとわかってきたらしい。それでもまだ噛むことは止めない。
悪いことをしたら叩かれることがあるのだと言うことは身に染みてわかっていると思う。
夜、居間の電気が消えたら眠らないといけないのだということも理解してきたかな。
適当な教え方だったのに、トイレはトイレシートでしないといけないんだということはもう完全にわかっているみたいだ。
ときどき失敗することくらいは許そう。シートが届かなかったり我慢できなかったり、狙いがちょっとはずれてしまったり、という失敗がほとんどだしね。
ボーダーのやんちゃに不慣れな私たちに、それでもルークはよく応えてくれていると思う。
酷い甘噛みも、時期が来れば治ってくれるのかも知れない。
向けてくれる視線が、とても可愛らしく愛おしい。
アイコンタクトをよく取ってくれるから、人の話をまったく聞かないようでもこちらを一生懸命理解しようとしてくれていることがわかる。
気になるのは自分が人間だと思っているらしいところだが、それはこれからおいおい他の犬と接することも覚えさせていけば解決できるのかも知れない。


ルークはギターが嫌いだ。たぶん最初の頃から嫌いだ。
理由はわからない。ギターの音を聞いたら慌ててテーブルの下に逃げ隠れる。
ギターを実際に目にすると、ちびりながら部屋の隅で震えている。
何があったんだろうか。誰も知らない。
でもときどき狂ったように暴れる時、このギターは大活躍する。たっぷり20分くらい、ルークはその場から動かなくなる。
弟の部屋で遊んでいて倒れてきたのだろうか。それともあの音が駄目なんだろうか。わからないけど。
ルークから死角になるところにギターは常に待機している。


ルークは自分を人間だと思っているようだが、一応犬の端くれだったらしい。
お客様が家に見えてもルークは吠えたりはしない。しかし祖母の近くに控えてその新客から視線を逸らさずにじぃっと監視しているそうだ。
牧羊犬はとくにテリトリー意識が強いらしいが、攻撃的ではないにしても一応、家に出入りする人々を警戒しているのかも知れない。
しかし彼は、ある意味鈍い。
こないだ、家の周囲でネズミが発生して、1,2匹うろうろしていたらしいが、すぐそばでカリカリ壁を掻いていてもまったく気づかずにルークは昼寝していた。きっと鼻を囓られるまで寝続けているに違いない。
最近そのネズミはどこかに引っ越したらしく見ることがないが。


ルークはあまりフードでつられたりはしない。なので、お座りとか、お手とかおかわりとか。他のもので代用しなければならない。オモチャである。
ルークの視線の高さまでボールを持って行くとそれを奪い取ろうと口を開けて向かってくる。なのでボールを逃がせてオスワリ、と言うと彼は伏せる(駄目)
そのまま起きあがろうとしないので、お手、と指示するとその恰好のまま腕を伸ばして手を乗せる。
おかわり、ともう一度指示すると、駄々をこねるようにワンキャンアウアウもごもご言いながらごろりと横になる。そのままふてくされるのだ。
仕方がないので無理矢理起きあがらせてオスワリ、と強い調子で言う。
まぐれかもしれない、ルークは座る。大袈裟に褒めて褒めてボールを与え、飽きた頃にまたボールを取り上げて繰り返す。
…お手、おかわりを指示すると、腕が持ち上がった体制のまま、ごろごろと身体を横にするのでいけない。
横になった身体はそうそう起き上がってくれないので、さらにいけない。

怒られるとルークは唸る。
叩かれると威嚇しながら向かってくる。
ギターを持ち出すとちびって逃げる。
無視をすると一人で遊ぶ。

こまったもんです。