◆お迎えしてから


こんなはずじゃなかった。
毎日そう思うんだけど。
半分くらい、もう自棄なんだけど。

君が来てから、ずいぶん家の中が明るくなりました。


>>出逢い<<



子犬の購入が正式に決まると、私たちは彼の名前を決めなければならなかった。
ブリーダーさんが、血統書をその決めた名前で申請しましょうとありがたくも言ってくださったからだ。
なるほど、そうか。それじゃあ決めないといけない。
ところがその頃まだ家人たちは、反対こそしないものの本当に犬を飼うのかどうかさえあやふやだった(と思う)。

「白黒の犬を買うことになりました」

白黒したのは彼らの目だった(…)


犬の手配をしたのはすべて私だったためだ。
名前の決定には期限が一週間ほどあったが、一日一日と先延ばしにされた。
誰かが提案しては誰かが反対し。結局優柔不断で決定権の確固としていない我が家では一苦労の作業だった。
そこでまたしてもネットの神様に神頼み。
ネット上のメッセンジャーで名前募集をしてみた。
ふとん(?)とか、ランランとか、カンカンとか、オセロとか、オレオクッキーとか……あんたら、白黒ならなんでも良いってわけじゃねぇんだぞ、と一言ツッコミたくなるような案を、お友達各位からご提供頂いた。(他力本願が何を言う)
しかし結局、期限最終日、無難で呼びやすい名前、ということで「ルーク(RUKE)」となった。
これはひとえに母の一存であったと言っても過言ではない。ちなみに私は「ネイ(neith)」を推していた。
後にこの紛争(違う)に参加しなかった祖母に、呼びにくいと不満をぶちくらうことになる。



それからまたしばらくして、届く日も決定すると、私はまず、迷子札(ドッグタグ)を購入した。
手作業刻印のオーダーメイド。
表面に、名前と生年月日と犬種と電話番号。
裏面に、「REMEMBER,I LOVE YOU.」
…犬の十戒の最後の一行を拝借した。それは決意であり、まだ見ぬ彼への誓いのつもりでもあった。
(ドッグタグの作成元は、Linkページでご紹介しております)





そして。
初めてこの目で実際に彼を見たのは、地元空港の貨物カウンターだった。
カウンタのお姉さんが持ってきた青い小さなバスケットの隙間から見える、黒と白の斑。
生後50日と聞いて想像していたより、ずいぶん小さい印象を受けた。
滋賀県から名古屋に運ばれ、飛行機で沖縄まで。そこからまた飛んで高松着。
東海地方から日本最南端へ降り立ち、さらに島国辺境、四国まで長時間。赤ん坊の彼はたった独り、大旅行を果たした。
素晴らしい。方向音痴で出不精の私は、生まれてこのかた、まだ東海地方には足を踏み入れたこともない。生後50日目の子犬に惨敗だ、万歳!(寒)

帰宅の途中の車の中。心配していた車酔いもなく。
私の母が抱えたバスケットの中で、母親や兄弟を恋しがってかキュンキュン鳴いて、憐れだった。
貨物に紛れて運ばれてくる長い間、ずっとこんなふうだったんだろうかと思うと、無い胸も潰れる思いだ(…)
幸せにしよう。そう思った。新婚当初、新妻のお尻を眺めつつ頬を緩める夫の図である(言うな)


基本的に運転手は前方注意。運転しながら後部座席の我が子を眺めることなど、到底無理なのだ。
家に着くのがあんなに待ち遠しかったことはない。

「わぁ、手を舐めてるっ。こっち見て見てーッ」
はしゃぐ母。
「見れんわッ!」
怒鳴る娘(私)。


帰宅して、実際に間近に彼をじっくり見ることができたのは、到着直後、ケージで粗相をしでかしてくれたその始末を終えてからだった。ずっと我慢していたのだろう。叱ることはもちろんない。
犬だけを抱いて家に入り、自分の荷物さえ車から運び出そうとしなかった母は、ちゃっかり逃げて被害を被らなかった。(ぉ





そういえば、彼はほぼ完璧にボーダーコリーの柄を綺麗に備えていたが、左頬の黒だけが少し残念だった。
それは写真で知っていたが、実際に目の前にしてみると、どうでもよくなった。
可愛かった。まん丸い、ブラウンの目がじーっとこっちを見ていた。


「ボーダーの子犬(とくにオス)はたいへんやんちゃですので……」

そんなことを電話でブリーダーさんに聞いたことを思い出した。
しかし、その日の(ここ強調)彼は大変大人しく、大変しおらしく。
こんなに大人しくていいんだろうか、どこか悪いんじゃないだろうか。
そんなことを考えながら子犬の関連サイトを半日かけて網羅したのであった。今思えば、まったき無駄な労力であったと断言できる。



2日目。
居間をかけずり回って彼専用の新品ベッドにダイビングをカマした。ベッドは軋みながらも彼を受け止める。

3日目。
同じく居間のローテーブルで頭を1、2度がつりと思い切り打った。(にやり)

4日目。
自分の歯が武器であることに気づき始めたらしく、とにかく噛む。所かまわず噛む。一番噛むのが好きなのは、家人の足である(平等に全員噛まれる)

5日目。
我が家の一階部分(トイレ・風呂・キッチンを除く)をすべて網羅した模様。家中が彼の運動場である。

6日目。
祖母の靴下入れに頭をつっこみ、どれで遊ぶか物色することを始めた。ピンク色がお気に入り。
ベッドへのダイビングは既に恒例となってしまった。目に見えて大きくなる彼に、ベッドはきしむどころか、半分ひっくり返りかける。ひっくり返るのも時間の問題。

7日目。
動物病院に行く。車に乗る時と、獣医の前では大人しい。「大人しいボーダーですね」獣医はコロっと騙されてくれた。体重が少し軽いと言われたので食事の量を増やすことを決めた。

8日目。
そろそろお散歩デビューも近いかと、首輪をつけてみる。どうせ大きくなるからと、小型〜中型犬用だったのが悪かったのか、口の間にはまってしまって取れなくなった。(…)ちょっと考えてみよう。

9日目。
ようやくトイレを覚えた。いや、初めから覚えていたのだろうが、彼は自分で主導権を持ちトイレを決定したようだ。トイレトレーは最後の三番目候補。二番目候補は弟の部屋の隅。一番目は私のパソコンの前である。(クセェ)

10日目。
普段彼は玄関を占領して網戸で室内とをわけているが、網戸を少しずつ踏んでずらして乗っかかり、部屋にあがる方法を考案したようだ。1度で覚えて2度目からは十年来の習慣のように難なく軽々と越えるようになった。さすがボーダーコリー(遠い目)。運動能力と知能指数の高さとやらは伊達ではないらしい。ついでにこの日、ケージを飛び越える方法も考案した模様。本来下に敷くはずのトレーを上からかぶせて事なきを得る。



小悪魔。悪魔。悪ガキ。悪坊主。糞ガキ。糞犬。(文字通り)
寝ている時だけ天使のようだ。